ある街の小児神経科。ここには自閉症、ADHD、LDなど様々なタイプの、様々な年齢の発達障害のお子さんが通ってきています。
ここの小児神経科が特別なのは、診察にも療育にもABAを取り入れいているところ。
ABAを使用した診察とはどのようなものか、早速見ていきましょう。
先生と一緒にやってみよう!上手に出来たらシールだよ。
小児神経科での診察は、聴診器で胸の音を聞いたり、お腹を触ったりするだけではありません。
前頭葉や大脳基底核など脳がどのような機能を持っているか/欠けているかを確認する為に、まっすぐ歩いてもらったり、手を伸ばしたりブンブン振ったりと、様々な動きをしてもらう必要があります。
その時お子さんに必要になってくるのは、先生の動きを見て、自分も真似てやってみる「模倣」というスキルです。しかし発達障害のお子さんの中にはまだ言葉の理解が十分でない方も多く、先生が「こうやって手を振ってみて」と言うだけではなかなかその通りにしてもらうことは出来ません。
そこで診察自体を1つのABAの課題として、診察に取り組んでもらいます。
まず先生が、「こうして」といってお子さんにしてもらいたい動作を見せます(モデリング)
そして机の上に点を書いた紙を置いて、「指差してごらん」と言います(視覚プロンプト)
すかさずお子さんの手を取って、その点を指差すよう手を誘導します(身体プロンプト)
お子さんが指差せたら、褒めてあげましょう。たとえ先生のサポート(プロンプト)付きでも構いません。とにかく指差せたら褒めてあげることが大切です。1回ごとに褒め、だんだん自分一人でできるようになってきたらさらに大きく褒めてあげましょう。褒め言葉だけでなく、シールなどお子さんが喜ぶものをあげることも有効です。
このような練習を繰り返すごとに、お子さん自身でできるようになっていきます。
当院の診察室には、お子さんが喜ぶシールやぬいぐるみ、お子さんにわかりやすい指示をするためのサポートツールなど、様々な仕掛けが隠されています。病院という慣れない場でちょっとナーバスになっているお子さん達も、ニコニコして診察室を後にしています。
先生の聴診器が怖い?スモールステップで心のハードルを下げていこう。
希ちゃんは自閉症スペクトラム障害と診断されている4才の女の子です。言葉もまだ少なく、コミュニケーションが取りにくいこともあるお子さんです。
希ちゃんは幼い頃から優しくしてくれる先生が大好きですが、聴診器と注射が大嫌いです。廊下やセラピールームで先生とすれ違ったら喜んで近寄っていくのに、先生が聴診器を見せた途端に泣き叫び診察室から逃げ出そうとします。「痛くないよ」と伝えても、過去に聴診器を当てられた後にすぐ注射をされた経験があるため、恐怖のサインとして認識されているようです。
そこで、診察室に入る前に、セラピールームで聴診器の練習をすることにしました。
最終目標は先生が聴診器を胸に当てた時に泣かない、という状態です。
その目標は今の希ちゃんにとってはとっても難しく大変なもの。そこでこの目標をスモールステップに分解してみましょう。
最終目標:先生が聴診器を胸に当てた時に泣かない
第一目標:机の上の聴診器を見て泣かない
第二目標:セラピストが持った聴診器に自分から触る
第三目標:セラピストが希ちゃんの手のひらに聴診器を当てても泣かない
第四目標:セラピストが希ちゃんの胸に聴診器を当てても泣かない
このような目標をたてました。診察室に入る前に、セラピールームで一つづつ練習していきましょう。
まず聴診器を机の上におきます。その横に、希ちゃんの大好きなDVDを再生しない状態で横に置きます。「椅子に座って」と指示をだし、椅子に座れたら、DVDをつけてあげます。
行動の後に良いことがあった場合、その行動は繰り返されると考えられます。これを強化と言います。
これが繰り返し出来るようになったら、「触って」と指示をだし、自分から聴診器に触ってもらいます。人は自分から触りにいく方が、人からされるよりも恐怖感が減るので、スモールステップの1つとして取り入れることが大切です。
これも繰り返しできるようになってきたら、セラピストが希ちゃんの手のひらに聴診器を当てる、そして希ちゃんの胸に当てるというステップに進んでいきましょう。
ここで大切なのは、ご褒美(強化子)のDVDはステップが上がるごとに増やしていく、という点です。最初椅子に座れた時に1分間つけてあげていたのであれば、自分から聴診器に触れたら2分、セラピストが手のひらにつけて泣かなかったら3分、そしてセラピストが胸につけて泣かなかったら4分、という具合です。このように強化子を増やしていくことにより、お子さんの成長を加速させてあげることができるのです。
セラピールームで出来るようになったら、さあ診察室へ。先生でも出来るかな?(般化)
セラピールームで出来るようになったら、とうとう診察室へ向かいましょう。
練習したセラピストではなく、他の人(=先生)でも出来るようになることを般化と言います。
この時に大切なのは、先生は最初から希ちゃんの胸に聴診器を当てないこと。セラピールームで練習したように、まずは聴診器の近くに座れる、自分から触れる、などスモールステップで進めてあげることです。
自閉症のお子さん達にとって、私たちが考える以上に「変化」は怖いもの。そして一つの能力の獲得はそれだけで大きな負担になっているということ。セラピールームでの希ちゃんの様子をしっかり先生に伝えて、焦りのない診察をしてもらうことが大切です。
診察と療育共にABAを取り入れることで相乗効果がうまれる!
このように当院では、診察にも療育にもABAを取り入れることにより、診察にも療育にも相乗効果が得られています。
また、小児科医が療育に積極的に関わることにより、医師がリーダーとなり、家庭、教育、保育、療育の連携がスムーズになります。結果として、患者さんにとってより良い環境、サポートを提供することが可能だと思われます。
小児科でABAを取り入れているところはまだまだ少ないですが、これからどんどん広がっていって欲しいと願っています。
Togetherのセミナーでは、行動の原理とABAの理論から解説を行っておりますので、家庭や学校だけでなく、職場や医療機関などでもABAの応用が可能です。是非ABAを学び、様々な場面で活用してみてください。
話題提供 中川貴子
小児科外来の一角で、医師・看護師・OT・STなどと共に働くABAセラピスト。
自閉症のお子さんに向けのセラピーと、ご両親に向けのペアレンツトレーニングを提供する。好物はみかん。
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